東京高等裁判所 昭和34年(ラ)770号 決定
渋谷簡易裁判所がした強制執行停止申請却下の決定が民事調停法第十六条、民事訴訟法第五百六十条により準用せられる同法第五百四十七条に基いてなされたものであることは、一件記録上明らかである。ところで民事訴訟法第五百四十七条による強制執行停止申請に関する決定は、口頭弁論を経ずしてなすことをうるものであるところ(同条第三項)、同法第五百五十八条には強制執行手続において口頭弁論を経ずしてなすことをうる裁判に対しては、即時抗告をなしうる旨が定められているので、右決定に対しては当然即時抗告が許されるかの観がある。しかしながら民事訴訟法第五百四十七条による強制執行停止に関する裁判は、同法第五百四十五条、第五百四十六条または第五百四十九条による異議の訴の提起が当然に強制執行停止の効果を伴わないため、右訴の提起にかかわらず強制執行が行なわれ結局異議の訴を無意義にするおそれのあることにかんがみ、異議の訴に附随してその判決がなされるまでの間一時的、応急的になされる性質のものであるから、これに対して独立した不服申立を許すことは必ずしもその必要がないばかりか、かえつて不適当と認めるべきである。更にこれを民事訴訟法第五百条による強制執行停止等の裁判の場合に対比してみるのに、同条による裁判もまた口頭弁論を経ずしてなすことができるにかかわらず、右裁判が、申立につき実質上の審査をして与えられたときは、(それが許容された場合は勿論、理由がないとして棄却された場合でも)不服申立が許されないことは同条第三項の規定及び同項の解釈に関して下された数次の大審院決定の示すとおりであるが、これは右裁判が本案の裁判に附随してなされる一時的、応急的性質のものであるため、独立した不服申立を許すことがかえつて不適当であることを主たる理由とするものに外ならない。しからば右の点につき全くその性質を同じくする前記第五百四十七条に基ずく裁判に対してもまた右第五百条第三項の趣旨を類推して不服申立を許さないものと解するのが相当であつて、第五百四十七条の裁判につき第五百条第三項のような明文がなく、かえつて第五百五十八条の規定がある故をもつて反対に解することは、いたずらに法文の外形にとらわれ実質を省みない誤を犯すものというべく、当裁判所の採るをえないところである。渋谷簡易裁判所がなした本件強制執行停止申請却下決定は、申請理由の疎明がないとして該申請を却下したものであるから、実質上の審査をしているものであり、従つてこれに対しては不服申立が許されず、抗告は不適法として却下せらるべきものであることは叙上の説示によつて明らかである。しかるに原審は抗告理由の当否について判断し、これを理由なしとして棄却したのは失当であるから原決定は取消を免れない。
(奥田 岸上 下関)